労働審判制度について 2010/4/12

【質問1】

労働審判制度では、労働者に有利な判決が出ると聞いたのですが、本当ですか?

 

【回答1】

労働者側が勝つ審判が多いことから、そのような面があると言えます。

労働事件では、「疑わしきは労働者の利益に」「疑わしき場合には、労働者側の言い分が通る」(どちらの言っていることが正しいのか

判断しかねるときには、裁判所は労働者の言うことを採用する)との弱者救済の考え方があるそうです。

 

たとえば、時間外手当請求事件を例にとると、労働者が毎日の勤務時間を手帳にメモをしており、そのメモを根拠に時間外手当の

請求をしてきたが、会社側では勤務時間を把握していなかったという場合には、労働者のメモにより時間外手当が算出されること

になります。 仮に労働者が過大に時間外手当を請求してきたとしても、会社側にその請求を退ける証拠がなければ、労働者が請求

したとおりに認められるということです。

 

今後、過払い金返還訴訟(正確には不当利得返還訴訟)に替わり、残業代請求訴訟が増えてくると言われています。

会社側は、労働者の過大な請求訴訟に立ち向かえるように、タイムカードなど客観的な証拠を残しておくことが求められます。

以下は労働審判制度についての解説です。


 ・ 労働審判制度は平成18年4月から実施され、平成19年は1494件、平成20年は2052件、平成21年1〜10月で2850件と

  その数は増え続けています。

    ⇒  今後も増えることは間違いありません。

 ・ 東京地裁には労働審判の担当裁判官が15名いるとのことですが、人員数に見合わないほど扱い件数が増えているとのこと。

    ⇒  担当裁判官を増やす予定だそうです。

 ・ 労働審判では3回以内の審理で審判が下されるために、平均して2.5カ月で結論が出ています。

    ⇒  加えて通常訴訟よりも費用が安いので、これも件数増加の要因になっています。

 

 


【質問2】

「タイムカードなど客観的な証拠を残しておくことが求められます」とあります。具体的な事例があれば教えてください。


【回答2】

過去に取り扱った事例を3件紹介いたします。より具体的にイメージいただけると思います。

 

■■<ケース1>■■

「事業場外みなし労働時間制」の対象としていた営業マンからの残業手当請求の訴えに対して、営業マンのメモに基づく残業手当

請求がほぼ認められた事例:

 

(会社側の管理)

 ・ 事業場外みなし労働時間制について、本来適用すべきではない営業マンに対しても適用していた。

 ・ 事業場外みなし労働時間制なので、会社側は当然のこととして時間管理をしていなかった。

 ・ 在社時間なども同様に記録を残していなかった。

 ・ 営業マンが作成する営業日報なども、訪問時刻や移動時間など労働時間を記入するところがなく、

   会社が労働時間を把握できない形式になっていた。


(対策)

 ・ 事業場外みなし労働時間制を廃止して、営業マンについても会社側が時間管理をおこなうことにした。

 ・ 在社時間を把握するためにタイムカードを義務付け、社外労働時間は営業日報にて管理。

 ・ 上記書類を基に、本人が残業申請書を作成し、上司の承認を得るようルール化した。

 

■■<ケース2>■■

基本給にみなし残業代が含まれる形態で給与支払いを受けていた労働者側が 「自分はこれまで雇用条件通知書を提示されていな

いので、みなし残業代の支給については知らされていなかった」と主張したものに対し、入社3年目に給与を確認した書面によって

労働者の給与額が確定したと見なされ、入社まで遡り給与を支払った事例。(ただし、満額ではない和解案):


(経緯)

 ・ 会社側は労働者に対して、基本給にみなし残業代が含まれている内容の雇用条件通知書を渡しているが、

  労働者は雇用条件通知書をもらっていないと主張。


 ・ 「労働者は給与にみなし残業代が含まれていることを知らなかったのであるから、知らなかった期間については、みなし残業代を

   支払ったことにはならない。その期間の残業代を支払うように」とする和解案が出た。


(対策)

 ・ 雇用条件通知書を交付するのではなく、雇用契約書を取り交わして、本人が内容を確認して押印するルールに変更した。



■■<ケース3>■■

労働者側が自分は管理監督者ではないと主張の上、未払い残業代を請求した事案に対し、労働者の主張どおり、管理監督者には

あたらないため未払い残業代を支払うよう判断された事例:

 

(経緯)

 ・ 会社側は、職務内容、組織図、給与他、管理監督者に該当することを示す資料を提出。

 ・ 社内関係者からだけでなく、社外関係者からも「管理監督者性がある」という意見書を提出。

 ・ 会社の主張は認められず、本人の主張どおり、管理監督者ではないとの判断。


(対策)

 ・ 本人の言い分に左右されないよう、管理職になった時点で、管理監督者であることを文書で本人に確認してもらうルールに

  変更した。


 ・ 具体的には、管理監督者に該当する役職になる際の辞令(2枚)の内の1枚に「管理監督者であることを確認いたします。」と自筆

  で記入してもらい、会社側がその文書を保管することにした。


 ・ 給与規程の役職手当の記載を修正した。「監督機関等から管理監督者でない旨の判断を受けた場合には役職手当を時間外手当

   として支払うものとし、管理監督者でないと判断された過去の期間の役職手当についても時間外手当を支払ったと見なす。」


以上、3つの事例をご紹介しました。

なお、こうした労働審判や労使紛争の多くが労働者の退職後に生じていることについてもご留意ください。

上記の3事例もすべて退職後に生じた案件です。